『SCMの真髄を追い求める旅へ』

〜とあるベテランSCMコンサルタントの独白〜 35年以上の経験を持つSCMコンサルタントがこれまで言わなかった本当のことを語り尽くす!

1-3-1.なぜサプライチェーンは複雑なのか?(その2)

1-3-1-2.パーツの組み合わせ

 

基本単位をパーツとしていくつも組み合わせることによってサプライチェーンの「骨格(かたち)」が形作られています。
では組み合わせる時の組合せ方にはどのようなものがあるのでしょうか。それがそのまま骨格となる形の複雑さの中身になっているはずです。

 

まずは空間的な広がりに応じたパーツの組合せがあります。
たとえば製造の工程を取り上げた場合に、A工場の製造ラインが1番から10番まであったと想定すると1番から10番までのPSIが並列的に組み合わされた形がA工場の形ということになります。またA工場の他にBからGまでの工場が存在していれば、同様に各工場の製造ラインのPSIで表現された各工場がAからGまで並列に組み合わされた形がこの企業の自社工場の形と表現できます。
さらに外部の製造委託会社が存在していれば、同様に製造委託会社を含めた製造能力、設備の全体としてPSIを組合わせた姿として表現することができます。

 

機能的な広がりも組み合わせの種類として想定できます。完成品の製造工程の前には中間品の製造工程や原材料の調達工程などが組み合わされ、また後続の工程として工場から流通倉庫への在庫移動や販売倉庫での保管工程、受注出荷の工程などもPSIの組み合わせとしてモデル化できます。

 

これら空間的や機能的な広がりに応じた組合せでは全体を俯瞰して見ることや特定の部分を詳細に検討する必要があることなどそれぞれの局面に応じた目的によって、何をどこまで組み合わせたサプライチェーンを対象とするかが決まってきます。
目的に応じて切り出さないことにはパーツの組み合わせがあまりにも複雑になりすぎてかえって判断ができなくなるからです。

 

もう一つは時間の広がりに応じたパーツの組合せです。
PSIを作成する時間の大きさを「バケット」と呼びますが、1日単位のPSIを7日分合計したものとして1週間単位のPSIがあり、また1か月分を合計したものとして月間のPSIがあり、さらにそれらを3か月分合計した四半期のPSIのような構造として表現できます。

 

時制の違いとしては、未来時点の予定のPSIに対して既に実現した後の過去時点の実績のPSIに置き換わるという関係の仕方での組み合わせがあります。
PSIをどの期間分作成するかによって、たとえば1週間単位のPSIであれば、今週のPSI、翌週のPSI、5週先、10週先などその企業にとって作成する意味のある長さの期間のPSIが存在しています。

 

私が30年以上前に作成していたとある製品のPSIは、その予定数値の計算結果が実績に置き換わりながら現在まで引き継がれて直近のPSIとして更新され続けているという性質のものです。数値は計算によってずっと引き継がれていると考えると、SCMとは時間を扱っている仕事だということがあらためて認識されます。



1-3-1-3.変化と制約

 

もう一つの複雑さを生み出している要因としてあげられるのが、常に変化するという性質です。
1-2-2.超えられない3つの障壁②「ゼロサムの壁」」の項で見たように、サプライチェーン全体はいくつものトレードオフの関係の繋がりとして捉えられます。
合算すると相殺されてゼロになるような相互依存関係の連鎖が常に変化にさらされているという状態です。
何かの変化を起点として他のどこかがそれを相殺するような方向での動きを起こし、さらにその変化が別の変化のもとになっていきます。

 

その相互の関係性は必ずしも1:1で変化するような関係とは限らないため、ある部分が1だけ変化するだけで他への影響が10にも100にも及ぶという可能性もあるわけです。
複雑系を理解するためによく引き合いに出される「バタフライ効果」まではいかなくても、性質としてはこれと同様の性質をサプライチェーンの相互依存関係は持っていると言えるでしょう。
小さな変動幅が、それが波及していく先ではより大きな変動幅に繋がっていくということを「ブルウィップ効果」と呼びます。

 

ある変化がきっかけとなり別の変化が起きているためそれに何らかの対応策を打つことが必要になった場合に、どのパーツをどれくらい変化させるような対応策を行うのか、他への波及効果はどれくらいになるかということを想定しながら複雑な意思決定を行う必要があります。

 

また変化に対して「制約」を考慮する必要があるということがさらに複雑さを増す要因になっています。
制約の例としては、ある相互依存関係の一方に上限や下限があり物理的にそれを越えた対応策は不可能である場合や、可変域が限定されている場合、あるパーツは固定値として前提せざるを得ないような場合、外部要因として自社では制御不能な場合、限られた時間内に実施しなくてはいけないという時間の制約がある場合など枚挙にいとまがありません。
制約なしにフリーハンドで何かの対応策を実施できるという場合はむしろレアケースだと言えるでしょう。

 

こちらの動きとしての変化を起点とした複雑さについても、形の複雑さと同様にそれぞれの局面の目的に応じた切り出しによってその複雑さを回避することができないと、データが豊富に存在していたとしてもそれらを有効に活用することには繋げられないということになってしまいます。

 

それでは、まず形に起因する複雑さと動きに起因する複雑さについてもう少し詳しく見ていくことにしましょう。