『SCMの真髄を追い求める旅へ』

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1-3-1.なぜサプライチェーンは複雑なのか?(その1)

1-3-1.なぜサプライチェーンは複雑なのか?



私たちが対象として取扱うサプライチェーンはなぜ複雑なのでしょうか?複雑とは何がどうなっていることを意味しているのでしょうか?
サプライチェーンはPSIの三つの要素をセットにした基本単位とそれらの組み合わせでできています。
それらを組み合わせたサプライチェーンはどのような意味で複雑だと言えるのでしょうか。



1-3-1-1.基本単位

 

基本単位のイメージをシンプルなモデル図にしてみると次のようなものとして表現できるのではないかと思います。

 

【 基本単位の図 】 
1-3-1-1

 
 
 
 










P:Production/Procurement :製造/調達
S:Sales/Shipment :販売/出荷
I:Inventory :在庫

 

製造と販売は在庫を増減させる動きとしてフローの性質を持っていて、在庫はその増減の差異の結果として物理的に残存しているストックの性質を持っていると言えます。
フローが原因でストックがその結果と表現できます。在庫を直接増減させることはできず、増減の手段となる製造や販売、場合によっては廃棄処理などの行為を行うことによる結果としてしか在庫を増減させることはできません。
基本単位は単に「足し算」「引き算」の二つの演算だけで成立するとても単純な構造物と言えるのです。

 

フローであるPとSは行為そのものなので、それを行うためには時間が必要です。たとえば、製造ラインにはその能力である製造速度に応じた製造に要する時間が必要であり、販売拠点まで在庫を移動させるための輸送時間などが必要になります。
ストックであるIは増減の差異の結果なので、数量として表現されます。在庫数量の増減として変化を把握し、また在庫回転率などの指標によって在庫数量そのものや推移の健全性などを評価します。
このような健全性などの評価を行ったり、PSIの数値自体の妥当性などを検証したりするために初めて「掛け算」「割り算」が登場することになります。

 

1-2-1.超えられない3つの障壁①「時空の壁」の項で見たSCMの必須アイテムである「リードタイム」と「在庫」はこの基本単位のモデルではそれぞれフローとストックという性質により組み込まれています。
フローであるPとSに必要な時間として組み込まれているリードタイムと、増減の差異の緩衝材として組み込まれている在庫です。

 

では三つ目のアイテムである「予測」はどのようにこのモデルに関係しているのでしょうか?
詳しくは後で登場しますが、この基本単位を使ってサプライチェーンの何を見るのかというと、これから起きることとしての未来の姿を表現することに用います。つまり、PSIは過去を追跡することが目的ではなくて今後の需要の動きに応じて適切に供給することを目的とするため、将来のSを予測するという形でこのモデルに組み込まれています。

 

フローの持つ性質の一つとして前後の機能工程間におけるフローの方向性が前後で鏡像関係になっています。
原材料在庫の出荷(払出)がその裏返しとして製造における受入や原材料として使用されるという関係にあります。必ずしも比率は1:1とは限りませんが、前工程の減少が後工程の増加の原因になっていてそれらが背中合わせの関係として一つのセットになっています。
基本単位の形をどう表現すれば理解しやすいかということを検討したのですが、この前後の工程のフローが背中合わせということが伝わりやすいイメージとしてこの形に落ち着きました。

 

これらの性質を持つPSIという基本単位を一つのパーツとみなしたときに、それらをいくつも組み合わせたものとして全体を表現しなければいけないほどサプライチェーンの全体は多岐にわたっているということになります。