『SCMの真髄を追い求める旅へ』

〜とあるベテランSCMコンサルタントの独白〜 35年以上の経験を持つSCMコンサルタントがこれまで言わなかった本当のことを語り尽くす!

3-1-3.解決策は実現できるか?間に合うか?(その3)

3-1-3-2.技術革新

 

3-1-1.物理的限界とその帰結」「3-1-2.SCMの最大のリスクは最初のチャンス」で見てきたようにSCMはいま「物理的限界」と「突発的事態」という量的質的ともに大きな変化に晒されていて、それに対して有効な手立てを発見し乗り越えていくためのツールとしての役割を社会的責任として期待されています。
このような変化に直面しているSCMはその本質的な特徴として物理的世界に属しており物理法則に支配されていると言えます。
この物理法則の特徴として私たちがSCMを利用するうえで前提としなくてはならない性質には以下のようなものが含まれると考えられます。
「揺らぎ」「ブレ」「複雑性」「相互依存性」「カオス(無秩序)性」「偶発性」「予測不可能性」などでしょうか。
元々このような性質を持っているサプライチェーンの属するモノの世界が、物理的な限界を迎えて何かを温存するために何かを捨てなくてはならない状況に陥ったり、思いもよらないような突発的事態の発生に翻弄されることになるのですからなおさら難しいかじ取りが求められていると言えます。

 

それに対して私たち人間、特にSCMに携わっている人間はこれまでの自らの経験や常識だけではできないような判断を迫られたり、情報システム上に莫大なデータが蓄積されつつあるにも関わらず処理能力を越えてしまって判断ができないような状態に置かれているのではないでしょうか。

 

社会人になって間もなく私が統計学を勉強した頃には、母数となるデータ数が多ければ多いほどそのまま統計的計算や処理を行うことは不可能だったため母数集団の中から無作為にサンプルを抽出し統計的処理を行っていました。それでも、90%や95%の確率でその統計的判断は正しい(有意性がある)とすることができるというのが当時の統計学の考え方でした。
しかし、情報システムの進歩によりいわゆる「ビッグデータ」の時代になり莫大な明細データをそのまま取り扱って統計的処理を行うことができるようになりました。ミクロのデータをすべてそのまま利用してマクロの予測などを行えるようになりました。ミクロとマクロを以前のように分けて考える必要がなくなったとも言えます。
「ナノ」と「テラ」を同時に処理できるようになったということは機械的な速度で結論を早く/速く出すことができるようになったと考えられます。

 

早く/速く結論を出すことができるようになったということは、結論から検証を経て再検討を行う循環工程であるPDCAのサイクルをより早く/速く回すことができるようになり、そのサイクルを短期間で多く回すことによって結果としてトライアンドエラーの頻度が高くなり演算結果の精度がより高くなると考えられます。
この速度を上げることの最大のボトルネックは「人間の処理速度」だと考えられます。人間の参画する工程をできるだけ機械に分担することでこれからの変化に対するSCMの判断や処理の精度を高めることが重要になります。
このことを実現するために技術革新により求められる「機械化」の方向性を次のように置いてみます。

 

自動化 → 無人化 → 自律化

 

①自動化:ロボット

これは既に多くの製造業の製造工程やバックオフィスにおける管理業務に導入されている機械化の段階でしょう。
人間の感覚器官の一部の機能や単純な運動で行える作業を人間に代わって代行するものです。
機械には人間の能力をはるかに越えた正確性、無誤謬性、反復性、迅速性があり、休み時間や労使交渉やメンタルケアや福利厚生などが不要でありコストやリスクの面で自動化は大いに意義があります。

この段階では機械は人間によるプログラム作成・改修、動作指示や手入力やインターフェースによるデータ登録などを必要として、あくまでも補助的な役割としてサプライチェーンの効率化に貢献しています。
PDCAで言うと「D」のプロセスをプログラムされた命令通りに実行することに専念していると言えます。
残りの「PCA」は人間の仕事となっていて、どんなにロボットが速く正確に製品を製造したとしても人間のPCAの処理速度に依存したサプライチェーンの「スループット」に留められます。

無人化:(生成)AI

次の無人化の段階は2024年時点から数年以内に実現すると考えられる段階だと言えるでしょう。
この段階では機械はルールが先に決まっていれば自分でそれとの検証を行い正誤の判断や場合によっては結果や過程の自動補正などを行うことができるようになります。人間が処理の開始を指示することにより決められた処理を行う一定の間は人間が不在でも構わないということになります。機械は自分でインプットデータを探し自らにインプットすることで学習し、導き出した回答をアウトプットします。

人間はこのようなAIなどのプログラムを事前に設計し初期条件を設定することが役割となります。初期段階ではアウトプットの監視、監督、判断などを行いますが、発達段階が進めば単にテーマ設定や機械への質問などのインプットを与えアウトプットに関して評価や承認を与えることがその役割となります。
この無人化の段階では人間が質問しないことにはAIはひとりで何かを調べたり結論を出したりすることまではできません。
ここまで来ると「P」を除いた「DC」と一部の「A」を行うことになります。あくまでも機械はこの段階では受動的であって人間が能動的に機械に何かをしてあげる必要があります。

③自律化:疑似生命

将来的な機械化の発展の方向性として目指すべきと考えられるのがこの「自律化」の段階です。
「生命」の定義はその数や内容はいくつかの説があるようですが、あえて三つ上げるとすると「エネルギーと物質の代謝」「自己複製」「恒常性」ということのようです。
この段階の機械化を「疑似」生命としているのは、この三つの定義のうち「代謝」を除く「自己複製」と「恒常性」を機械が獲得する段階をイメージしているためです。

人間が質問したり判断する必要はなくなり機械自身が自己判断し自己完結した形で何らかの結論を出すことができます。また何かの問題が発生したり変化や判断の誤りがあった場合などに自分で判断した結果に基づき自己修復したり自己改造を行うこともできます。初期段階では機械によるアウトプットを人間が承諾したり追認したりすることになりますが、自律化が更に発展すればそれも不要になることになります。

そしてここが重要なのですが「自己保存」つまり自分の命を自分で守るという行動ができるようになれば、自律的な進化の行動として電力供給などのエネルギーの「代謝」も自分で確保する日も近くなると考えられます。つまり人間が一方的に電源を断って機械をシャットダウンやリセットできなくなる状態ということでしょうか。

こうなると機械と人間はある意味では並列的な役割を分担しているパートナーという位置づけになるでしょう。そこで人間に残された役割としては今人間が担当していることのある部分を機械に委託・委任するということ、そしてそうしたからには機械に対して干渉や指導はしないということになるかもしれません。
人間の介在する必要性がそもそもなくなるということになり機械が自己完結して受け持つ領域のPDCAのすべてを担うことになります。

この段階に至って初めて、機械は自分の速度で独自の考え方や優先順位で「自由に」判断し行動することができるようになるでしょう。
人間はこれまで人間以外に「法人(格)」というものを発明し、企業や人間の集団をあたかも人間とみなして一部の権利や義務を課すということをやってきました。この段階の機械が登場した時にはこの機械に対して人間で言うところの人権をどのように考えるのかという問題も起きてきそうです。

人間を含めて生命の発生や進化には誰の意図もないと考えられます。科学技術の発展による機械の進化は明らかに人間の意図をその発端としています。究極的にはこのように生命と機械との差異は意図的かそうでないかだけになるのではないかと考えられます。

このことを含めて機械の将来についてはこの後「3-2章.シンギュラリティ:人間が機械に追い抜かれるとき」で妄想してみたいと思います。



【 SCMにおける技術革新の方向性 】

 

自律化の段階で機械に担っていただくべきと考えられる仕事を各機能工程別に例示すると次のようなものではないかと思います。

 

【調達工程】

 

取引先との機械同士による価格などの条件交渉や契約条件などの交渉と妥結

 

【製造工程】

 

際限ない調整のフィードバック工程による国宝級の職人技の機械化やナノレベル以下の緻密な製造技術

 

【需給管理工程】

 

需要予測における予測不可能性への挑戦

 

【物流工程】

 

無人車や無人機による配送とその際に発生が不可避と考えられるあらゆるトラブルへの自己完結した対応

 

【営業工程】

 

受発注における機械同士による条件交渉と妥結、自己完結した取引先に対する営業活動や接客サービス

 

ことSCMに関連する領域では機械の自律化を目指した技術革新を起こすことに注力していく必要があるのではないかと勝手に想像しています。