1-3章.SCMの2つの複雑性
複雑なシステムには精神が芽生える
グレゴリー・ベイトソン (1904~80)
サプライチェーンは多数の異なる構成要素が複数組み合わされて構成されていて、それらの相互作用によって互いに影響を与え合うことで全体の動きが決定されていると言えます。
サプライチェーンの各部分を分解してそれぞれの働きから法則や原理を導きだそうとする「還元主義」ではその本質を見極めることはできません。
もし複雑系であるなら、複雑な現象は複雑なまま理解しようとすることが重要となります。
サプライチェーン上の特定の機能工程だけをより細かく分析したり評価したりするだけでは、その機能工程そのものの性質や特徴を正しく理解することはできません。関連する前後の機能工程やサプライチェーン全体における位置付けや働きの一部として捉えることが重要だという考え方です。なぜならサプライチェーン上で起きていることはすべてお互いに関連して与え合う影響は錯綜しているため、何を原因として何がどのように影響を受けていて全体としてどのように機能しているのかを理解しないことには正しい判断ができないからです。
とはいえ人間の認識能力や行動には限界があるため、サプライチェーンをそのありのままの複雑な状態そのものとして取扱うことにも限界があります。
ここがサプライチェーンがその本質として持っている複雑さという性質に由来する取扱いの難しさ、ひいてはそれによる課題解決の難しさに繋がります。
私たち人間にはいろいろなタイプがありますが、なかなか物を捨てることができないという方がいらっしゃいます。断捨離の必要性がうたわれるのはどうしても物が捨てられないという方々が一定数いらっしゃるということでしょう。
ここで検討する複雑性に対する対応は、複雑なものからいかに捨てていいものを捨てるかという観点で捉えられます。捨ててはいけないものは残しつつ捨ててもいいものを選び出して思い切って捨てる。そんな都合のいいことが実際にできるのでしょうか?
なぜ捨てなくてはならないのかということを腹落ちさせるためにも、まずはサプライチェーンの複雑さとはどのようなものなのかを理解するところから始めていきましょう。
1-3-1.なぜサプライチェーンは複雑なのか?
1-3-2.形状の静的複雑性
1-3-3.変化の動的複雑性