『SCMの真髄を追い求める旅へ』

〜とあるベテランSCMコンサルタントの独白〜 35年以上の経験を持つSCMコンサルタントがこれまで言わなかった本当のことを語り尽くす!

2-1-3.より良くマネージするための準備(その2)

2-1-3-1.合意形成に取り組む姿勢(続き)

誤解がないように念のため指摘しておきますが、合意形成には一方的な自己犠牲は禁物です。不必要に不当に妥協し自説を後退させることはないのです。お互いにとって一方的ではない妥協点を何とか見いだしていこうとする協力関係や信頼関係の構築といってもいいでしょう。お互いが相手を理解し尊重しあい分かり合うことができれば何らかの妥協できる案を決めることはできるはずなのです。

 

逆に討論を行うということであれば、1から7のすべての局面でそれを否定して自説を相手に説得し力づくでもイエスと言わせることを目指すことになります。
たとえば、1では存在自体を否定するためにあらゆる情報を駆使してそもそもそんなことはあり得ないこと、あるいは存在していない錯覚や思い違いだということを納得させようとすることでしょう。
その場合は自分も存在自体には気付いているとしても、相手を論破するという目的のためにあえてそれには気付いていないふりをしたり、あたかも存在しないかのように論を展開するでしょう。

 

討論には必ずといっていいくらい自分や他者に対する多少のウソやフェイクがいつの間にか混入しているものなのではないでしょうか。それを繰り返しているといつか知らず知らずのうちにウソやフェイクが習慣化したり免疫ができてしまって、更に大きなウソやフェイクに繋がり結果としてその代償を自身で引受けなくてはならなくなるのではないでしょうか。
私自身も他人事ではないと常日頃からたとえそれが小さなウソやフェイクだとしてもそのようなものが紛れ込まないように注意しているつもりです。しかしそれを全うするためには討論とそれによる論破から常に一定の距離を置かなくてはいけないのではないかと考えるようになっています。

 

しかしこのような討論による論破という行動は、私たちコンサルタントという職業がそれなりに成立するためにはどうしても避けて通ることができないものだと言えます。相手を説得して自分の言っていることが「正しい」ということを結論としないことには悲しいことにこの商売は成り立たないという面があります。
それはコンサルタントだけに限らず立場や意見の異なる人間が何らかの勝ち負けを競い合って勝つことに意義があるという職業や場面では必要な手法です。たとえば、裁判における検察と弁護人との論争はこの討論の典型ではないでしょうか。
ネット上の論争では相手が目の前に現実として存在しているわけではないので「論破」は節度を失い徹底的に相手を破壊、粉砕、撃破し尽くすことも見受けられます。そこには完遂した時に得られる快感が大きく影響していると思われます。

 

繰り返しになりますが少なくともサプライチェーンのマネジメントにおいて私たちが必要とする一体としての満足解には、そのような討論による論破は全く無用であるだけでなく有害で介在してはならないようなものだと言えます。

 

よく言われることですが、このような私たちに必要な対話による合意のために求められる感情的な態度や能力として「共感(する)力(Empathy)」ということがあげられます。
これは同情(Sympathy)が心理的な上下の関係の上から下にいる存在に対して憐みを抱くような態度なのに対して、平等・並列的な立ち位置で他人の考え、主張、感情などを「その通りだと感じる」ことだと言えます。
共感は同調とはまた違うので、必ずしも自分がその相手の考えなどと同じ考えになることではなく「なるほどあなたがそう感じることは自分のことのように感じることができる」というような心の動きではないかと思います。

 

この共感という感情的な態度や能力を駆使して、自分を無理に曲げる必要はないけれども同時に自分が唯一ではないということを心の底から認めるという行動をとることができるかどうかが、異なる立場や利害や意見の人たちと合意するためには重要だということが言えると思います。

そのためには人間として成熟している必要がありそうです。自分が唯一の存在ではなくその他大勢のうちの一人だと心底認め、自分が間違っているかもしれないと立ち止まって考えることができるようになるには、特に能力が高いと自認している人には単に年齢だけでなく様々な挫折や困難な経験と時間の経過が必要であるように思えます。
このような共感力を持って合意形成に貢献できる人間というのはある意味では特権的な役割を持つことができる立場ということが言えるのではないかと感じています。

 

自分自身が合意形成の場にふさわしい人間なのかどうか、私も含め常に自問自答というセルフチェックを重ねながらその場に臨むようにしたいものです。もし自身がその資格を持つ人間なのだとしたら、必ずその場で合意形成に対して何らかの貢献ができるのではないでしょうか。