『SCMの真髄を追い求める旅へ』

〜とあるベテランSCMコンサルタントの独白〜 35年以上の経験を持つSCMコンサルタントがこれまで言わなかった本当のことを語り尽くす!

2-3-3.業界内、業界間、社会連携での取組み(その2)

2-3-3-2.業界間:効率化のための取り組み

 

業界内でのコスト削減を主目的としたSCMの効率化のための取り組みでは劇的な効果を上げたり継続的にメリットを出し続けていくことは実態としてはかなり難易度が高い状況が見て取れます。開始時の構想としては一部限定した地域や機能でのスモールスタートからの順次範囲の拡大を企図する活動がありましたが、なかなか効果を出すことができず先細りの状況となっているような取り組みも一部にはあるようです。

 

その原因としては前述のように同じ業界であれば各種の特性が同じなため効率化の対象が限定されてしまったり、既に個社単体で進めてきている効率化により効率化の伸びしろがそもそも小さいことなどが考えられます。
もしそれが事実だとするとその状況を打破して効果拡大と活動の維持継続や拡大拡充を進めていくためには業界内に留まっている範囲を拡大し異業種・異業界との取り組みを模索していくことが一つの方法だと言えるのではないでしょうか。

 

ではどのような観点で業界を越えた取り組みを行う相手先候補を検討するのかについて考えてみましょう。
業界を越えた取り組みの目的は最初は広げすぎない方が得策だと言えます。サプライチェーン上のいずれかの機能工程におけるパフォーマンスの効率化にまずは焦点を合わせることが妥当ではないかと考えています。
いかにして業界を越えたパートナーとSCMの効率化を図ることができるのか、という発想で相手先候補を洗い出してみましょう。

 

その場合の観点は自社(うち)と「共通点と相違点が同時に存在しているような組合せ」を持つ業界、業種、企業などであり、次の検討用作業シートの枠組みを使って洗い出してみましょう。



【 業界間協業の検討用作業シート(例) 】

ポイントは共通点と相違点が「同時に」存在するということです。「何かが同じで何かが違う」ということです。
いくつかあげた例にもありますが「何か」に相当する代表的なカテゴリーとしては「時間・時期」「数量」「品質・仕様」「取引先」「場所」などが考えられますが、皆さん固有のサプライチェーンにとっては他にもどのようなカテゴリーでの共通点と相違点が想定できるか考えてみてください。

 

このような形である程度可能性がありそうな相手先候補について洗い出しができたら、その業界や企業などの調査を行い更に可能性を詳細に検討を進めることになります。そのような作業を経てまずはその業界の特定の一社との間での協業を進めていくことが現実的だと思われます。
あらかじめ協業に向けた他の活動が存在しているなどの条件がない場合には一対一での協業を進めることが先決でしょう。それが検討時点での魅力度がアピールできたり、取組みの開始後に軌道に乗るかすることにより賛同する企業を見つけ対象を三社以上に拡大していくことを目指すべきだと思います。

 

その際には業界間ということを考慮するといかなる相手とどのような活動を開始するにしても様々なことについて「標準化」を進めることができるかどうかが成功のカギになると考えられます。たとえ二社間だけだとしてもあらゆることについて標準化をどこまで進めるか、個社の独自性をどこまで存続されるかが議論の的になることが予想されます。
実際の協業の活動ではこの標準化と独自性のせめぎ合いで活動の成否が決まる場合を多く見てきました。独自性を残しすぎると得られるメリットが小さくなる傾向があるためです。

 

サプライチェーンを取り巻く環境はますます複雑化するとともに課題の難易度も高くなりつつあります。そのような状況変化に応じて競合他社に先駆けて先手を打って効果的かつ抜本的なSCM施策を打ち出していくためには自社だけの知恵や経験により、自社だけの範囲を対象とした取り組みだけでは限界があると考えられます。
またこれまでの経験からすると一般的にサプライチェーンを担当する組織の力量が社内政治的に弱いことも考えられますので、そのようなこれまでとは質的に異なるようなSCM施策を企業や事業として意思決定することはかなりハードルの高いことだと言えるでしょう。
そのような状況を打破するためにも社外や他業界との協業によりそれらの実現を目指すということは意図的に不可抗力を生じさせてそれを推進力に変えるという一定の効果が期待できるものと思います。

 

更には、異なる業界の二社間の協業の取り組みを越えた複数の業界全体を巻き込んだり、政府や自治体を巻き込んだ仕組み作りなどの取り組みを進めていくことができれば、より着実で根本的な変革を伴うようなSCM施策を打ち出すことに近づいていけるものと考えられます。
そのようなことも想定しておくことでまず最初の一歩のステップの幅を小さくし、背中を押す力を大きくすることに貢献できるのではないかと思います。

 

このような文脈におけるSCMにおける自社内の取り組みから業界内の競合企業、業界間の二社協業、複数の業界全体や政府自治体とも連携した取り組みへの量的拡大と質的拡充を思い浮かべると、すでに日本語としても定着してきているように感じている「プロジェクト」という概念の本来の意味が想起されます。

 

「プロジェクト Project」はラテン語のPro前へ+ject投げるが語源と言われていて「先の未来へ投げること」「自分自身を不確定な未来に向けて投げかける、投げ出すこと」だと言うことです。
これから不確かな未来に向けて何か効果的で意義のあることを意思決定してそれに向けて邁進していくということが本来のプロジェクトの持つ意味だということです。
そうではなく現在の延長線上にある対症療法的な施策を形だけやっておくというのは本来の意味で言うプロジェクト活動に該当しないということを、私たちコンサルタントは肝に銘じなくてはいけないとあらためて思いを強くした次第です。