2-2章.己を知る:「うちの」SCMを正しく捉える
科学は説明しようとせず、解釈しようとすらせず、もっぱらモデルを作る
ジョン・フォン・ノイマン (1903~57)
サプライチェーンのマネジメントをうまく機能させて早く適切な合意形成を図るためには、複雑なサプライチェーンを「簡素化」し「モデル化」することが必須となります。それは言わば参考になりそうなサプライチェーンの他社事例を「うち」のサプライチェーンに引き寄せることだと言えます。うちのサプライチェーンを正しく捉えて、ありのままの実像にできるだけ近い姿を見極めることができれば、動きを予測し適切な対応策を実施することに少しでも近づくことができるのではないかと思います。
サプライチェーンのマネジメントを自動車の運転にたとえてみましょう。
いきなり自動車を自分で運転することはできません。まず座学として交通法規、道路標識など自動車を運転するうえで社会が既に合意しているルール、取決め、約束事を理解し記憶することが前提となります。これらの中には理屈として理解できることに加えて、左側通行のようにとにかく社会のルールとしてそのように決められているから守らなくてはいけないことなどが含まれています。
このような座学はサプライチェーンの他社事例を学ぶことに似ています。外部環境とも言える自分を取り巻く社会の中に存在している他社事例を学ぶことによりどのようなサプライチェーンが世の中に存在し機能しているのかを知ることができます。
次に、訓練を通じて運転の技能を習得する必要があります。自動車教習所での実践としての運転の実習の始まりです。
それを通じて私たちはいわゆる「車両感覚」を身につけていきます。自分が運転している自動車の形と大きさなどの形状を目視に頼らず触覚の延長として身体に覚えこませることにより、障害物に接触することをひとつひとつ確認することなく回避することができるようになります。
また「運転技術」を身につけることにより、自分が運転している自動車の動かし方、速度と進行方向を制御することができるようになります。
自動車教習所で運転の技能を学ぶということは自分が運転しようとする自動車の形を認識し動きを制御できるようになるための
訓練という意味合いがあるのではないかと思います。
サプライチェーンのマネジメントにおいては、車両感覚を身につけることは「うち」のサプライチェーンの姿を正確に認識することであり、運転技術を身につけることは「うち」のサプライチェーンが外部環境や内部環境の変化に応じてどこにどのような影響が出るのか、またどの方向にどれくらいの速度や力の大きさで負荷がかかるとどこに向けてどれくらいの動きが生じるのかを認識することだと言えます。
自動車教習所での訓練を続けた結果として技能が身についたら試験を受け、それに合格すると晴れて運転免許を取得することができます。それで初めて公道で自動車を自分で運転することができるようになります。
自動車を公道で運転できるようになることにはそもそも目的があったはずです。自動車を自分で運転することにより通勤や日常生活の様々な場面で便利で快適な生活を送ることができます。つまり、自動車の運転ができることでそれを自分の生活にどのように活かしていくか、その自分なりの便利で快適な使い方を手に入れることができるようになるのではないでしょうか。
しかし、実際のサプライチェーンのオペレーションやマネジメントでは、正しく学んで免許を取得することを経ずに公道に出て危うい運転を続けているような場合があるのではないでしょうか。
さらに実際の自動車の運転では経験を積んでいく過程で、あらゆる操作を意識からできるだけ切り離してとっさの判断や操作なども含めて無意識的に操作を行うことができるようになっていくものでしょう。いちいち頭で考えていたら瞬間的な操作が間に合わなかったり、意識がある特定のことに集中しすぎてしまって同時にあらゆる情報を捉えて総合的に判断することが妨げられてしまいます。
サプライチェーンのマネジメントにおいても同様に、瞬時のアクションが手遅れにならないような即時判断ができるように、前項で検討したように「簡潔化」「モデル化」「無人化」のプロセスが迅速に正確に機能するようにしておくことが重要となります。
そのために必要な「モデル化」とはどのようなものかここで検討していくことにしましょう。
2-2-1.うち固有のモデルのつくり方:構造と虚構性
2-2-2.うちのモデルの動かし方:変動と固定
2-2-3.うちのモデルの使い方:ストーリーとプロット