『SCMの真髄を追い求める旅へ』

〜とあるベテランSCMコンサルタントの独白〜 35年以上の経験を持つSCMコンサルタントがこれまで言わなかった本当のことを語り尽くす!

1-1-1.そもそも一般的にSCMとは何か?(その1)

1-1-1.そもそも一般的にSCMとは何か?(その1)

 

今さらという面はありますが、とはいえここに掲げるような基本的な観点を意識して現実のSCMを見ている人は少ないのではないかと思います。
スタート地点としてなら、一般論、抽象論は意味があるのです。
ここでつまずいてしまうとこの先のSCMの深淵を覗くことができなくなるので、もしあなたが賢者ならここは読み飛ばしても結構です。


1-1-1-1.SCMの本質は「一体化」

 

サプライチェーンマネジメント(SCM)の歴史、発展、定義などは教科書に譲るとして、SCMという概念が登場する前と後との違いはどのようなものだと考えられるでしょうか。

 

SCMの登場以前の製造業における機能の工程は、今思い返すと「生産・製造」「調達・購買」「在庫管理」「販売管理」など独立した各工程そのものの機能と、それらを次の工程に引き渡すという機能が前後して繋がっているという概念だったように思います。
「独立」というとそもそも違う機能なんだから別々に取り扱うのは当たり前という気もしますが、「分断」「バラバラ」という言葉を使うとその性格がよく分かるのではないでしょうか。

 

SCMという概念の登場の背景には、このような各機能工程が縦割りの構造として分断されていることで全体としてスムーズな供給の流れが滞ってしまうという問題意識があったと考えられます。
したがって、SCMの最大の特徴であり価値は、需要から供給までの繋がりの「一体化」にあると思います。以前は統合という言葉を使用することも多く、これは何かを「ひとまとめにする」という意味に解釈することになり違和感を覚える方がいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでいう一体化は、何かをひとつにすることではなくて、「調子を合わせて」供給の流れをひとつの流れとそれを構成する部分として捉え、その端から端までの流れに滞りが起きないように進めていくと理解するとそもそものコンセプトに近いのではないかと思います。

 

第1次SCMブームといえるような時期に、この概念を先駆的に著してベストセラーになった書籍のシリーズを読まれた方も多いのではないでしょうか。


1-1-1-2.基本単位とその組合せ

 

ではここで言う「一体化」する対象はどのようなものを指しているのでしょうか。

 

サプライチェーンを構成するもっともシンプルで基本的な単位は、いわゆる「PSI」です。


P:Production/Procurement
S:Sales/Shipment
I:Inventory

 

在庫を真ん中に置いて、在庫を増やすという機能と在庫を減らす機能の3要素のセットが基本単位と考えられます。
一般的には、Production/Sales/Inventoryとして解釈されている場合が多いと思います。
が、Procurement(調達)とShipment(出荷)という概念も含めて理解しておくことで、対象となるサプライチェーンの範囲が大きく広がることになります。
たとえば、原材料のPSIというと在庫を増やす機能としては生産ではなく調達を置き換えることで、問題なくPSIをこの領域に適用することが可能となります。

 

この3要素が基本単位だとすると、一体化する対象とはこの単位を基本単位とするパーツが組み合わされたものとして理解できます。
いくつものPSIのユニットが生産や在庫管理や販売という各機能工程の中に構成要素として組み込まれていて、前工程の減らす機能の裏返しとして後続する工程の増やす機能が背中合わせに連結しています。

 

この話をすると、「それは計画在庫型のSCMのこと」で「受注生産型には当てはまらない」と言われることもあります。
それは本当でしょうか?

 

「在庫を持たない」と一般的に言われる受注生産型も実はこのPSIを基本単位としてモデル化することができます。
在庫を持たないというのは、完成品の在庫を持たないということを表しているのだとすれば、その前の工程で発生する中間品、仕掛品や調達してきた原材料や部品、モジュールなどはたとえ在庫が存在している時間は短いとしてもSCM上どこかに在庫として存在しています。
自社内だけにとどまらないサプライチェーン全ての当事者と機能工程のどこにも在庫が存在しないということはありません。これはこの後に述べる原理的な制約によりあり得ないことだからです。

 

また、受注生産型における完成品の在庫だけを捉えると在庫は常にゼロということが実現できている場合にも、完成品のPSIの基準在庫水準をゼロに設定していると理解するとPSIでモデル化することが可能となります。
要は基準在庫水準というパラメーターをゼロに設定すると捉えることで、一見すると別ものに見えるものも実は同じモデルとして表現することができるということです。

 

単純な基本単位とそれをパーツとして組み合わせたものが一体化の対象と考えると、あらゆる複雑なSCMも読み解くことができるようになります。


1-1-1-3.SCMを構成する対概念

 

SCMにはいくつもの対となる概念が含まれていて、それらを把握し調整し供給の流れを滞りなくしようとしていく活動と理解できます。
主な対概念としては以下のようなものがあります。

 

需要と供給
計画と実行
数量と金額
情報とモノ(リアル)
原因と結果
フローとストック

 

それぞれの対概念は言うまでもなく相互に関連し影響を与え合って時間の経過とともに刻々と変化していくようなものになっていることが分かります。
これらが基本単位としてのPSIの中に意味合いとして組み込まれていくことで、より複雑な複合的・複層的なPSIが構築されて全体が成立しているということが理解できると思います。

 

これらの他にどのような対概念が存在しているか考えてみて下さい。