2-1章.マネジメントとは終わりのない活動のこと
人事を尽くすことが 人生の目的でなければなりません
与謝野晶子 (1878~1942)
第一部で検討してきたサプライチェーンの「マネジメント」について少しおさらいしておきましょう。
SCMは限りある経営資源を「状況変化や発生するリスクなど状況の変化に応じて何とかやりくりして経営計画を達成するために用いられる経営手法のひとつ」と定義できます。
経営資源の再配分を行うためには既に決定されている優先順位の変更を行う必要があります。なぜなら経営資源は短期的にはゼロサムの性質を持っているため、何かを増やすにはその代わりに何かを減らさなくてはならないからです。
誰かの何かを減らす=損をさせるということは既得権を手放すということを意味するので、そう簡単には物事が進まないという性質のものです。
このやりくりとしてのマネジメントを実行するにはいくつかの制約があります。その主なものは運動、状態、時間の制約です。
サプライチェーン上のパフォーマンスを向上させようとするとそのための施策には何らかの上限値や可動域以上の動きは生み出せず、その結果の状態も上限下限があります。またサプライチェーン上の全ての活動には期限という時間の制約があるため、その限られた時間内に的確にマネジメントを行なければならないという制約を受けます。間に合うようにするためには、早く変化を検知して速く意思決定をして行動を開始する必要があります。
サプライチェーンのマネジメントの対象は変化することが常態と言えるように一定の状態に留まることがなく、その予測をするにしても現時点では十分に正確には答えを出すことはできません。したがって、やりくりとしてのマネジメントは常にやり続けることが必然で終わりのない活動という宿命を背負っています。
このように常に変化しているのですから、前もって正解がどこかに存在していてそれを発見しようとすることは意味がありません。正解はどこにも存在していないし、昨日の正解が今日の正解かどうか分からないのです。
発生する変化やそれによる影響は他の活動やパフォーマンスに相互に影響を与え合っているという関係のため、サプライチェーンのマネジメントを適切に行おうとすると部署や部門、法人を越えた範囲での相互作用や影響を考慮して実施することがとても重要です。が、得てして何かの施策を行う際には、自部門の中に閉じた範囲でしか検討がされず他への影響が考慮されていないことが多々あると言わなければならないでしょう。
常に起きている変化は小さいものから大きいものまで多種多様なため、それに対して何らかの対応が必要なものと不要なものとが混在しています。あまりにも日常的に多くの変化が起きているため、日々の対応はオペレーションレベルの担当者に丸投げされているケースが多いと言えます。それが、特に日常の現場でのマネジメントの属人化やKKDと言われるような「勘と経験と度胸」による判断に人知れず依存しています。
そのうえ、これまでの職人技にも似たベテラン担当者によるマネジメントが職場環境の変化、特に人材不足や教育の不足により次世代の人材に伝承されにくい状況が増えてきているのではないでしょうか。
ここまで見てきたようなサプライチェーンのマネジメントを取り巻く難しい状況を踏まえると、その都度の状況変化に即応して共通認識を維持しながら「とにかく合意形成」をやり続けていくということが、避けて通ることのできない適正なサプライチェーンのマネジメントの恐らく最も有効な手法の一つであることに異論はないのではないかと思います。
この章では、「それでも」いまの私たちには何がどこまでできるのかを検討していきたいと思います。
2-1-1.何をどのように合意するか
2-1-2.合意形成のための仕掛け
2-1-3.より良くマネージするための準備