1-4-3-3.評価するときに区別すべきこと
評価方法が不公正になってしまっていることのもう一つの側面としては、評価対象を適切に「区別」して評価できているかというものです。
ここで取り扱う区別にはいくつかの種類がありますが特徴的なものをいくつか上げてみたいと思います。
まずは、「自責か他責か」という区別があります。
組織単位でも個人の評価でも同様ですが、被評価者にとっては責任がない対象に対して評価を受けることに納得することは難しいことです。例えば製造部門で製造原価を評価対象にする場合には、製造部門の中でも複数の部署ごとに担当する業務は分かれているためそれぞれの担当業務のパフォーマンスの合計値として製造原価の合計値を評価されてしまうと自部署に責任のある業務における貢献が平準化されてしまうと感じられてしまいます。
製造原価の内訳ごとに責任部署が分かれるのではればその単位で評価が行われないと不満がつのることになります。
さらに言うと、製造原価には調達部門による原材料調達など直接費としてかかわる他部門の責任範囲や、品質管理部門や総務部門などの間接労務費としてかかわる部門もあります。
評価における区別の問題は、どこまで細分化して評価することが公正な評価に近付けられるかという観点が重要になります。やみくもに区別を細分化することは実績データの取り扱い単位が細かくしなくてはならず、そのためにデータを按分計算するなど本末転倒になってしまう可能性があります。どのくらいの区別をするのが「うちにとって」正解なのかは、どれくらい納得性が得られるかということに尽きるのではないかと思います。
もう一つ特徴的な区別に「制御可能かどうか」というものがあります。
典型的な例としては、天然資源や外国為替などの相場の変動に依存して変化するパフォーマンスがあげられます。
自部門にとって打ち手がなくどうしようもないこと、日々の努力の成果が吹き飛んでしまうような外部環境の変化による影響などが評価対象の一部として含まれている場合には、その評価自体の納得性が得られることは考えられずモチベーションが上がらないという結果になると思われます。
このような要素を取り除いたうえで制御できる範囲だけを対象にして評価することができればいいのですが、これもどこまで排除することができるのかということが問題となります。
自責か他責かという区別では、どこかにその責任の所在を明確にすることが可能ですが、制御不可能な部分に関してはどこにもその責任の所在がないということになれば、組織全体の評価としてはそれは正しい評価とは言えません。
制御不可能の対象範囲を広げすぎることも問題を発生させることになるので最小限度にとどめる必要があります。
また、相対評価の対象となるような部署や個人の評価からは制御不可能な要素は排除するとしても、組織全体や部門全体のパフォーマンス評価としては制御不可能な要素も含めた評価をシビアに実施することも重要となります。そうでなければ内輪だけの評価をして喜んでいるということになりかねません。
また区別には事業やビジネス全体における「戦略的な位置付け」による評価対象や評価方法の区別が必要な場合があります。
たとえば、新規に立ち上げた事業やビジネス、新設の工場や新たに導入した設備、M&Aなどで新たに自社グループに参画した事業やビジネスや組織など、「敢えて」他とは評価方法を変えることが適切であることがあります。
しかしこの点でもその対象となる範囲とそれとは別の既存の被評価者の双方にとって納得性が得られるようなものにすることが重要です。新規であるがゆえに評価が「甘い」と捉えられてしまうのか、まだこれからの部分だからシビアに評価することは先送りにして「しかるべき」だと捉えられるか、この違いは大きいと言えます。
いずれにしてもここで検討してきた評価における適正な区別という論点については、納得性をどのように高めるかということが大きな問題となります。全方位的に全員が納得することは難しいというのが評価自体が持っている性質と言ってもいいと思います。とはいえ関係者間で「手打ち」ができるような妥協点を見出すことは組織のパフォーマンス向上にとってはとても重要で避けて通ることはできない問題と言えるでしょう。