1-3-3-3.各パーツ間の連鎖とその評価
変化とその影響によるサプライチェーンの複雑さの元になっている各パーツの連鎖の関係は以下のように相互に接続された関係と言えるのではないでしょうか。
【 変化⇒影響⇒対応策の連鎖 】
変化A⇒原因と結果の連鎖⇒影響⇒目的と手段の連鎖⇒対応策⇒原因と結果の連鎖⇒変化B
あるパーツで発生した変化Aが原因となってその結果として通常は複数の他のパーツに影響が出ます。(因果関係の連鎖)
影響が発生している複数のパーツの一部または全部が無視できるようなものではない場合にはそれに対応した何らかの打ち手を行う必要があると判断されます。(原因の特定と対応実施の決定)
影響を最小限にとどめたり最も望ましい結果になることを目的としてそれを実現するための手段としてどのパーツに何をどれくらい実施するのかという対応策を決定します。(目的と手段の連鎖)
手段として実施した対応策を原因とすると、その結果として特定のパーツに変化が現れます。(因果関係の連鎖)
あらかじめ想定した対応策の結果に対して実際にはどのような変化が引き起こされたのかを検証します。(効果の検証)
これらが複数のパーツで同時多発的に、そして相互に影響を与えながら連鎖反応としてサプライチェーン上で常に変動を起こしています。このように原因と結果の連鎖では結果が次の連鎖の原因となりまた次の結果に繋がります。目的と手段の連鎖も同様に手段はそれを行うことを目的とした手段に展開されていき際限がありません。
これが休むことなくグローバルで日夜繰り返されることになるわけですから、SCMもそれに合わせて休むことがありません。
このサプライチェーン上での連鎖におけるすべての変化とその影響は主に「コスト」と「サービス水準」と「リスク」によって評価すべきものと言えます。数量、金額、時間で数値化されている変化と影響が許容範囲内にあるのか、あるいは戦略的に実施する施策による変化と影響が目的通りに成果を出しているか、ということを計る尺度としてコスト、サービス水準、リスクで評価するということです。
【 目的設定と対応策検討の例 】
原材料費の高騰を起点とした目的設定と対応策検討の例でイメージを共有してみましょう。もちろんこれは非常に単純化した図にしていますので実際には複雑で多岐にわたり、評価も◯✕などではなく可能なものは数値化して評価すべきものです。
原材料費の高騰は直接的な影響として製造コスト増に繋がりますが、ここでは目的を費目としての製造原価の抑制として設定しています。製造原価の内訳には当然原材料費以外の製造経費や直間の労務費が含まれますので、目的を製造原価と置いた場合の対応策の範囲はそれらを含む製造原価を抑制するために有効なものが候補として含まれてくるということになります。
対応策の候補はそれぞれコスト、サービス水準、リスクの観点で評価され、その対応策による他への影響である変化B~Eまでも同時に評価することで最終的にどのような対応策をどの程度実施するべきかということについて関係部門や場合によっては経営層レベルで合意し実行に移すということになります。
また、原材料費高騰の影響を製造原価を抑制することだけでは相殺し切れない場合には、必要に応じて製造部門の責任範囲を越えてエスカレーションすることで、営業利益を確保するための販管費の抑制という対応策も併せて行うという意思決定もあり得ることを示しています。
これらの目的設定から対応策検討の複雑な処理までを「1-2-2.超えられない3つの障壁②「ゼロサムの壁」」の項で確認したように経営資源(リソース)におけるゼロサムの制約の中で、また「1-2-3.超えられない3つの障壁③「既得権の壁」」の項で確認した各機能工程間の既得権の壁に対応した方法で、しかも短時間のうちに実施する必要があることは言うまでもありません。
そこでこの複数の可能性のある対応策とそれによる結果的な影響であるパフォーマンスを比較検討して意思決定を行うための枠組み(フレームワーク)の簡単な参考例をご紹介します。
【 パフォーマンスの比較方法の例 】
コスト、サービス水準、リスクで評価するとしましたが、実はこれらにはプラスの効果をもたらすものとしての「メリット」とマイナス効果をもたらす「デメリット」の両面があります。ある目的を達成するための手段として実施できる対応策のセットは全体としてゼロサムの関係になることが前提となっています。無尽蔵に対応策を実施するわけにはいかないのです。
その前提の下で実施可能な対応策の組合せによって結果的に生じる影響を、この枠組みには縦軸にメリット、デメリットとして設定してプラスとマイナスの総合評価として点数付けを行います。
横軸には既得権における損得がどこにどのようにどれくらい発生することになるかを外部まで考慮したサプライチェーンの各機能工程ごとに配置して記載できるようにします。
二つの軸によるマトリクス表としてはとても簡素なものですが、考え方としてこのような観点での比較検討の枠組みをあらかじめ準備しておくことで、都度の判断が必要になった際に時間の無駄なく検討や議論を速やかに開始できるという点が枠組みを使うことの価値と言えます。
ここで登場している対応策には、短期的、中期的、長期的という時間軸による三つのパターンが想定できます。
短期的対応策:いま起きている変化やその影響をとりあえず軟着陸させるための応急処置や対症療法
中期的対応策:変化やその影響により発生した課題を安定的に解消するための根本治癒
長期的対応策:今後の状況変化に対して発生する可能性があるリスクを回避するための再発予防
短期的対応策は対応が不可避となっている目の前の事態に対して日常的に行われている様々なリアクションであり、SCMとしての活動がほぼこれに終始しているということも多くみられます。喉元すぎれば熱さを忘れてしまうということでもなく、次の事態が発生してしまいそれへの対応に終始するということの繰り返しということが実際のオペレーションの現場では多いのではないかと思います。
中期的、長期的な対応策には、お金と労力と時間がかかります。それなりに腰を据えて計画的に取り組んでいく必要があります。慢性的な人手不足が今後ますます深刻化するSCMのオペレーションではこれらの対応策は先送りにされたり優先順位が低く抑えられたりする傾向に拍車がかかり、気付かないうちにより脆弱なSCMになっていることが懸念されます。
しかしいずれの対応策を完璧に実施したとしても、常に変化するサプライチェーンを取り巻く環境においては「完治」という状態はやって来ないものと考えるべきでしょう。こういう宿命とも言える状況により根本治癒や再発防止のための対応策はより一層手付かずのままになるという悪循環を生んでいます。